長い遊びの果て。
鰓の無い僕らには、そこはあくまで彼の世界で、呼吸を止めて潜る僕らを、嘲るかのようにすり抜けて泳ぐ。
息の続かない深みへと走り去り、水の底で僕らの存在など気にもかけていないかのように揺蕩う。
僕らは深く息を吸って、水底の灌木をゆすり、
三方から少しずつ、少しずつ追いつめていく。
水中からそそり立つ岩と、岸との狭間に追い込まれた彼の命運は、もはや僕らの手に握られていた。
大きな魚体に宿った慢心が、いずれ網の中でもがくことになった。
広い河川の中州に立ち、
四方を小さな岩に囲まれた窪地に、僕らは金色の魚を横たえた。
川の神に捧げられた供物のようでもあり、
その姿は荘厳ではあるが、
生命の不条理、運命と宿命、奪うものと奪われるものの具現であった。
水中で僕らを魅了した、とても大きな生命力は、急速に衰えてゆく。
ここは僕らの世界だ。
けして軽んじて弄んだ訳ではない。
しかし興奮と高揚の後にそっと忍び寄る焦燥と罪悪。
ひと時三人は無言で立ち、鼓動の灯の消える寸前、その場を立ち去った。
振り返った僕は、いま、彼の世界である水中に戻せば、大きな体をくねらせ、再びその金色の鱗を煌めかせ、
僕らの届かない深みへと泳ぎ出すような錯覚を覚えた。
おそらくは朽ちてゆくであろう時の流れの後、
金色の鱗だけは、墓標のように残って欲しいと願った。
僕はあなたの思い出を遡上していたようだ。
優しすぎるあなたの怒った顔を見たのはあれが最初で最後かもしれない。
「盆に殺生をするものではない」「盆に川に近づくものではない」、
家を出る僕らにかけた、怒気を孕んだ声を今も覚えている。
帰った僕らは嘘をついた。
なにもいなかったと。
ただ、あなたの悲しむ顔を見たくなかったから。
明け方の夢がいざなったのは、思い出すことのなかった幼い頃の記憶。
煌めいていた鱗は、金色の花弁のように風に舞い散った。
うつつにいる僕と、うつつにいないあなたの夢だった。
僕とあなたの間には、泳ぐことの叶わない、仄暗い川が流れるという。
此岸と彼岸、その距離は幾許だとしても、涅槃に立ち入ることは許されず、
あの金色の鯉のように自由に行き来することもできず、
鰓の無い僕は、せめて精霊馬を作って、あなたから見えるよう迎え火を灯すのです。