関さん、いつも綺麗なガーデニングをしてくれてありがとう。
大きなピンクはペチュニア、小さな桃色は日々草。
このビロードのような黒紫の花もペチュニアかな?
白いオルレアの上に咲く、地味ではあるが、ひときわ目を引く妖艶な花は「サルピグロッシス・シヌアータ」。
英名はベルベットフラワー。
友人のエクステリアデザイン会社社長と、そこで勤務するガーデニングの先生の関さんが選んでくれた花。
僕をイメージすると、まさにこの花なんだそうだ。
花言葉は「真情」(嘘偽りのないまごころ)。
僕に真情があるかどうかは自分ではわからないが、とてもうれしい。
ただ最近、この言葉が僕から離れない。
Do what`s good for you, or you`re not good for anybody・・・
「自分にとっていいことをしろよ、でないとお前は誰にとっても必要じゃなくなる」 。
付きまとう影のように僕の足元から同じ身の丈で僕を見据え、
それは靴底についたガムのように粘着質で、僕を不快にさせる。
「自分にとっていいことをしろよ、でないとお前は誰にとっても必要じゃなくなる」。
他人にとっていいことをするのは簡単だ。
自分にとっていいことがわからない。 あまりにも漠然としすぎている。
それが最近の僕の心情なんだ。
開業してから二年、休みを取っていない。
海にも潜っていないし、雪の上を滑ってもいない。
清流釣りも、山歩きもご無沙汰だ。
あれほどのめりこんでいた格闘技とボディービルもしていない。
体重は20キロ程落ちた。
昼食をいつから食べなくなったんだろう。
アマゾンの欲しい物リストには60冊くらい小説や心理学書、哲学書、ノンフィクションがたまっている。
「それってただのグチだろ?趣味と自分にとっていいことってのはちがうものだろ?」靴底が僕に捨て台詞を吐く。
開業して二年でたくさんの患者様と出会った。
関東近辺だけでなく関西からも来ていただいた。
ここのところ海外在住の邦人からのオペの依頼が増えてきた。
誰かに少しは必要とされていると感じることはできる。
ここ最近で一番うれしかったのは、どこの病院で入れ歯を作っても合わなくて、
食事ができない方との出会いだった。
入れ歯を作って調整を終えたら、お礼の電話をいただいた。
「痛くなくて、咬めて、うれしくて、お赤飯を炊こうかしら!」。
その言葉は僕にとって 麗しい愉悦だ。
家路につき、寝静まった家の食卓で一人夜食をとる。
息子はもう夢の中だ。
いつの間にか息子は成長している。
僕には彼の成長を見ることができない。
朝、僕が起きるときにはもう、彼は保育園に向かっている。
彼が起きている時間に家に帰ることができない。
僕は夜中、いつものように勉強をして、合間、息子の寝顔を眺める。
家内の髪の匂いが染みついたタオルを顔に巻いて、大好きなミニカーを握りしめている。
起こさぬよう、僕はそっと彼の足にキスをする。
ただこの時、この瞬間だけは切なくなるんだ。