人の生涯を水の流れに例え、砂や岩の配置で人生を表現する。
もっとも大きな岩、その岩が泉、それは誕生、人生の始まり。
そこから順に、水の流れに沿って人は次第に成長する。
成長の過程でぶつかる困難や挫折がその周りの岩。
そして最期、死ぬ時に到達する悟りの心境が大海。
その海の象徴が渦巻き。
ぐるっと丸い砂紋がひとつ。
ここが人生の最期。
ぐるっと丸い砂紋がひとつ。
子供らよ、大きな岩から飛び降りて。
小さな岩を飛び越え駆け回れ。
砂紋の波を、その小さなスニーカーの靴跡に変えて。
白砂を蹴り上げて、渦巻きを消して。
あたかも、多くの参列者が葬儀に参加したように。
渦巻きを消して。
高僧の読経がはじまる。
聞きなれた旋律があたりをつつむ。
ごく近しい者だけの葬儀。
悠久の旋律は僕に平穏をもたらさない。
僕はその意味を解さない。
ブッダもキリストも呪文を禁じ、説法で説くよういいつけた。
スペルは風のようにすりぬける。
だから葬儀の終わりはすぐにやってくる。
足のしびれなど感じさせる前に。
それでも香のかおりは体に染みついた。
男四人でかつぐのは棺と砂紋。
肩に感じるのは幾許か。これを軽さと呼ぶのであろう。
このまま町を練り歩こう。
火葬にするのはおくらせて。
去来する思い出の重責は語らうこと。
60年前に女医を目指すのは大変なことで、
男子学生は助けてくれず、勉学は大変だったらしい。
解剖が間に合わず、自分の弁当箱に眼球を入れて持ち帰り、徹夜でレポートを書いたとか。
逸話をたくさん持った才女だった。
何年前だったか、まだ健康だったころ僕が入れ歯のチェックをした。
下の奥歯が四本無いだけだった。
ほどなくして脳のめずらしい病気を発症した。
それからの長い入院生活。
口腔ケアなんて誰もしてはくれない。
歯は溶けて膿だらけの口の中。
あたりまえに肺炎を起こす。
抗生剤の点滴をおとす。
その繰り返しの数年。
もう点滴を入れる血管はなくなった。
歯はほとんどなくなった。
ハグキから湧きだす膿の危険なにおい。
日照りでひび割れた土くれは舌。
土気色の唇から熱風が吹く。
潤すべきは唇。
注ぐべきは粘膜。
ねえ、二ホンの医療はかわらないかな?
四肢の不自由なひと、意識のないひと、
恍惚のひと。
彼らへのケアはかわらないかな。
彼らの家族は口腔ケアの大切さにきづいてくれないかな。
激務に追われるナースの仕事をこれ以上ふやさずに。
ねえ、歯科医療はかわれないかな?
いま僕らは週にいちどだけれど総合病院で働いている。
意識のないひと、寝たきりのひと、
恍惚のひとたちの口腔ケアや治療をしている。
NSTチームのなかまと、留守をまもるなかまに感謝を。
スーパームーンに願いをかけて。
ぐるっと丸い砂紋を消して。
もう彼らを逝かせないで。