辛いことがあると足を運ぶ、ほの暗いBAR。
THE END OF A (ジエンドオブ・アー)
ホットバタードラムの季節はとうに過ぎてしまった。
客も引いた時間だから誰を気にすることも無い。
祝いの酒を辛いときに飲むのもいい。
キールとキールロワイアルを少し酔えるだけオーダーした。
酔い覚ましに頼むのはジンジャエール。
バーテンダーはグラスに氷を入れて、トニックウォーターで氷をリンスする。
こっそりと覗いていた僕はその意味を質問した。
氷の臭みが消えるらしい。
氷とグラスはリンスされているから、注がれたジンジャエールの炭酸はぬけないで、綺麗な泡が立ち上る。
充分な炭酸が喉を焼く。
はじける炭酸に乗って、ジンジャーの香りが口いっぱいに広がる。
誰にも気づかれないこだわり。
ほとんどの人には判らない、微妙な味の違い。
きっと客の誰かに解ってもらいたくてしているわけじゃない。
僕の診療もそれでいい。
自己満足でもいい。
ただ手を抜かず、誠実に。
たとえそれが伝わらなくても。
それでも、歯科で長年働いてきたスタッフはわかってくれる。
「うちのクリニックで働いたら、他の歯科にはかかりたくないです」。
そうあなたに言われると、正直これでよかったと思えるのです。