ふるえる手を彼女がつつむ時

 

僕のクリニックは年中無休で、年末も年始もひたすら仕事だった。

だから年を越した実感が無い。

たくさんの先生や歯科業者の人に色々言われた。

「プライド無いのか?」とか「患者だって正月は休んでるよ」とかね。

 

元旦以外は忙しかった。

顔面外傷の救急搬送も受け入れたりした。

救急車は行田から若葉まで来た。行田からだよ!

その道のりに何件の口腔外科をもつ総合病院があるのだろう。

全ての病院に搬送を拒否されたらしい。

最後に行き着いたのが僕のクリニックだった。

 

暴れる幼児の顔面外傷で歯槽骨骨折だったから、僕一人では対応ができない。

すぐに長山先生に来てもらった。

20分程で長ポンは来てくれた。サンキュー長ポン!

二人で骨折を整復して、筋肉が見える裂傷を縫合した。

 

言わせて。  これが僕達のプライドです。

 

年始になって町は新年会シーズンだ。

僕は缶コーヒーを飲みながら、仕事に集中してほてった頭を外の冷気でクールダウンさせる。

 

新年会に行くとおぼしき女性達がクリニックの前を通り過ぎた。

「パニック障害歯科?歯科恐怖症外来?ばっかみたい。」

「うちの院長そんなの関係なくやっちゃってるしー」

けらけら笑っていた〇〇歯科のスタッフは 本当に 本当に ブスだった。

だから許すよ。その顔に免じて。

 

震えている患者さんの手を、僕のスタッフは優しく包み込む。

 

ぎゅっと握ってもくれる。

それが心を優しく包み込む。

見ている僕は、僕自身に欠けてしまった何かが、新しいもので満たされてゆく気がする。

救われているのは僕かもしれない。

 

これでいい。

 

 

 僕のスタッフに感謝と最高の賛辞を。

 

あのとき、缶コーヒーを飲みながら伏目がちになってしまった僕は今、

自分自身を恥じている。