カリソルブ治療法とは、歯科医療の先進国スウェーデンの大学と複数の研究機関や製薬会社により、1987年から約10年かけて研究開発されてきた治療法です。
薬剤により虫歯を化学的に溶かし、手用器具にて機械的に除去するので痛みが少ない治療です。
1998年にスウェーデンで認可され、現在47か国で導入されている治療法で、日本では2007年に厚生労働省の許可がおりたばかりの痛みの少ない進化した虫歯治療です。
健全な歯質は残し、感染している象牙質のみを除去するう蝕除去法です。
歯は生涯治療できる回数が決まっているので、何度も無限に治療出来る訳ではないのです。
従来の治療法だと、虫歯を完全に取り除く為には周りの健全な歯質まで削らなくてはなりません。
歯の寿命を長く保つためには、出来るだけ健全な歯質は残すことです。
カリソルブ治療法は、2000年にFDI(国際歯科連盟)により提唱されたMI dentistry(ミニマルインターべーション)概念に基づき『最小の侵襲により、最大の効果を得ること』を目的とした治療法の1つです。
2007年に許可がおりたのですが、当時の薬剤は虫歯が溶けるのが遅く虫歯の除去に時間がかかり大変でした。2016年に新発売されたカリソルブは、非常にスピーディーな治療が出来るようになっています。又、以前は『カリソルブ』1剤だけでしたが、2016年からは『カリソルブ』『キンダーソルブ』『ペリソルブ』と、3種類の薬剤が発売されています。
*注意点*
カリソルブで虫歯が溶けるのはエナメル質の中の象牙質虫歯のみです。
その為、エナメル質に限りタービンで削る必要があります。
●使用薬剤
次亜塩素酸ナトリウムで虫歯に感染している軟化象牙質を溶かして殺菌し、アミノ酸で健全な歯質を保護します。
●長所
●摘要
C₁~C₂の浅い虫歯(神経まで達している深い虫歯は適用外です。)
1.カリソルブはエナメル質に作用しない為(歯の中の象牙質の虫歯にのみ作用)上のエナメル質の部分をタービンで少し削ります。
2.薬剤を虫歯に十分に塗布し、約30秒待ちます。
3.軟らかくなった虫歯の部分を専用の手用器具で丁寧に取り除いていきます。
4.薬剤が濁らなくなるまで、2・3の作業を数回繰り返します。
虫歯の検知液を使い、虫歯の取り残しがないよう慎重に処置します。
5.完全に虫歯が取り除けたところで、詰め物をします。
小児の虫歯治療には『キンダーソルブ』があります。
こちらはカリソルブの小児用で使用薬剤は次亜塩素酸ナトリウムとアミノ酸でカリソルブと同じなのですが、配合を変えています。
生えたての永久歯や乳歯用に開発された、柔らかい歯の組織に最適なものです。
特徴はカリソルブと同じです。
麻酔をしなくても大丈夫なケースが多く、削る道具の使用が最小限なため音と振動がないのでお子様が怖がりません。それにより痛みも少ないので小児に最適です。
『カリソルブ』『キンダーソルブ』は、全て自費での扱いとなります。
歯髄は、歯の最も内部にある神経や血管がある部分で、歯に加わる様々な刺激を感知して虫歯などから歯を守る機能があります。
歯髄は、感覚機能だけでなく、歯の内面から歯に水分と栄養を与え、防御壁となる第二象牙質の形成や、虫歯菌に抵抗する免疫細胞などの防御機能があります。
「歯髄を守る」「歯の神経を残す」理由としては、歯髄の有無が歯の寿命に大きくかかわるからです。歯を失う原因には、歯周病や虫歯、外傷などもありますが、最多の原因は、歯が折れてしまうことで、喪失歯の約6割を占めると言われています。
この歯根破折(歯が折れてしまうこと)を生じた歯のほとんどは神経のない歯(失活歯)で、過去に虫歯などが原因で、神経を取る処置(抜髄処置)がされています。
抜髄処置や根管治療をされた失活歯は、歯質が健全歯と比べ大きく失われているため、歯根破折のリスクが高く、相対的に歯を失うリスクも高くなります。
また、歯を失う2番目の原因である歯の根の病気(根尖病巣/根尖性歯周炎)も、抜髄処置や根管治療をされた失活歯で生じる問題です。1番目の原因である歯根破折と合わせると、喪失歯の7割以上が神経のない歯であり、歯を失わないためには、歯髄を守ることが重要であると言えます。
そもそも歯の神経を抜くとはどのようなことでしょうか?
神経のある歯を土にしっかり根をはやした大木に例えると、神経を抜いた歯は枯れ木まではいかなくても乾燥した材木といったところでしょうか?とても脆く、折れやすい状態なのです。
歯髄近くまで進行した重度の虫歯では、刺激により歯髄が炎症を起こしやすいため、歯髄を保護する処置(覆髄処置)が必要になります。
特に虫歯の除去時に神経(歯髄)が露出した場合は、通常、水酸化カルシウムによる直接覆髄法により歯髄の保護・温存を試みますが、成功率はそれほど高くないため、結果的に神経を取る処置(抜髄処置)が必要になることも多くありました。
当院では、欧米で主流のMTAという薬剤を使った覆髄治療が可能です。
従来の水酸化カルシウムセメントによる治療と比べて、高い確率で神経を残すことができます。
現在では世界的に、水酸化カルシウムよりMTAを使った覆髄治療が主流となっています。
MTA覆髄治療では、最適な覆髄剤を使用するだけでなく、虫歯の除去方法などの治療過程がとても重要になります。歯髄に近接した深い虫歯の治療となるため、歯髄に刺激を与えないように虫歯を取り除いていくことが必要になります。
他院で治療した金属を外したところです。
虫歯の取り残しが広がってすでに神経に感染が起きているように見えます。
虫歯を完全に除去しました。
虫歯を染め出す液を使いながら少しずつ丁寧に除去しました。
やはり、神経まで虫歯が達していました。
ピンク色に見えるところが神経です。
MTAという、感染した神経や、感染した象牙質また感染したその他の組織を殺菌し、再生させる薬を詰めました。
神経を抜く治療にならずに済みました。
1.歯髄を保存できる可能性がある
MTAによる覆髄処置により、通常であれば神経を取るケースでも神経を残せる可能性があります。
2.歯の切削を最小限に抑えることができる
抜髄処置(根管治療)を回避できることにより、歯を削る量を最小限に抑えることができます。
3.歯の寿命が延びる可能性がある
歯髄の保存により、歯の主要な喪失原因である失活歯の歯根破折や根尖病巣を回避し、歯の寿命を延ばせる可能性があります。
4.生涯でかかる治療費用を抑制できる
歯髄の保存により、抜髄処置(根管治療)の費用、ファイバーコア等の土台の費用、セラミッククラウン等の高額な被せ物の費用が掛かりません。
失活歯では、経年的に根尖病巣の出現による再根管治療や被せ物の再製作が必要になることも多く、また、歯根破折等に起因する抜歯により、ブリッジやインプラント、義歯などの新たな治療が必要になる場合もあります。MTAにより、歯髄保存が可能であれば、生涯にわたり発生する可能性のあるこれらの治療費用を抑制することができます。
※適応症が限られている
MTAによる覆髄処置は、非感染生活歯髄(C2:う蝕症第二度)が適応症です。
何もしなくてもズキズキ痛む、温かいもので痛むなどの炎症歯髄や感染歯髄(C3:う蝕症第三度)は、非適応症となります。
冷たいもので少ししみる虫歯は適応症となる可能性がありますが、MTA治療の可否は虫歯の状態を直接確認して判断する必要があります。
※歯髄を保存できない場合がある
MTA覆髄処置は、従来より高い確率で歯髄を保存できる治療法ですが、歯の状態によっては、治療後、歯髄の炎症等により抜髄処置が必要になる場合があります。
MTA治療の予後については、それぞれのケースで診断時や治療時の歯の状態確認後により、具体的にご説明しています。
※治療直後は歯がしみる場合がある
MTA覆髄治療の直後は、虫歯除去時の刺激や覆髄処置の刺激により、一時的に歯が過敏になり、冷たいものなどでしみたり痛む場合があります。
歯髄の回復に伴い、通常これらの症状は軽減・消失していきます。
※保険適応外の治療である
MTA覆髄治療は、保険適用外の治療となっており、1歯あたり3300円(税込)です。