歯周病、知っているようで知らない病気。
実はとても怖い病気です。
想像してみてください。
ある日あなたは、はだしでビーチを歩いていました。
ちくっとしたので足の裏を見ると、貝殻を踏んで血が出ていました。
そのときばい菌が入ったらしく、後で腫れてきました。
数日後、膿が出て普通は治ってしまいます。
でもあなたの足の裏から毎日膿が出ています。
「しばらくしたら止まるだろう」そう思っていましたが10年たっても止まりません。
足の裏を強くつまむといつも少し膿が出続けています。
どうですか?とても怖いことです。最悪、足の部分切断が必要になります。
大丈夫、健康な人にはこんなことは絶対に起こりません。
でも待ってください。30代の80%が歯周病にかかっているのです。
つまりこの人たちは全ての歯が抜け落ちるまで、数十年にわたって口の中から膿が出続けているのです。
一般の方が思われている歯が失われる原因ナンバー1は「虫歯」だと思います。
しかし、実際はそうではありません。
実は、ナンバー1は「歯周病」です。
事実、30代の80%以上は歯槽膿漏(歯周病)を患っており、日本人が歯を失う原因としては、虫歯よりも歯槽膿漏(歯周病)で歯を失う方のほうが多いのです。
歯槽膿漏(歯周病)は歯を支えている顎の骨が溶けてしまう怖い病気です。基本的には、一度、溶けてしまった骨は再生しません。さらに、歯槽膿漏(歯周病)にかかってしまうと、自分では気づかないうちに、強烈な口臭を放ちます。
また、歯周病は歯を失うだけでなく、様々な病気との関連性が多く報告されています。
こうした状況を少しでも改善するために、患者様に歯槽膿漏(歯周病)に関する正しい知識を持っていただく必要があります。
特に歯周病と関連が深い病気が糖尿病です。
糖尿病の人は、感染に対する抵抗力が弱まっているため歯周病にかかりやすく、重症化しやすいと言われています。さらに、歯周病菌は毒素や炎症性物質を大量に放出するのですが、これがインスリンの効きを悪くさせ、糖尿病を悪化させることも危険視されています。
つまり、糖尿病があると歯周病になりやすく、歯周病があると糖尿病が悪化しやすいという関係性が存在するのです。
また妊娠中の歯周病の悪化は、お腹の赤ちゃんにも影響を及ぼす事がわかってきています。
低体重児を出産した母親と、正常体重児を出産した母親の歯周病の進行程度を比較した調査では、低体重児を出産した母親の方が歯周病が進行していたという報告があります。また、妊娠中の歯周病をそのままにしておくと、早産の確率が高まることも指摘されています。妊娠中でも歯周病の治療は可能ですので、4~8ヶ月の安定期に治療を受けることをお勧めします。
エイズに関しては、歯周病菌の作り出す物質がHIVを再活性化することが証明されており、エイズの発症・進展に関連する可能性が示唆されています。
そして、ここ最近では、歯周病と「癌」との関連性が指摘されています。
ある報告では、歯周病患者は、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、食道癌などの発生リスクが高いという結果が発表されています。また、腎癌、膵癌なども歯周病と関連している事が報告されています。
このように、歯周病は歯を失う病気というだけではなく、全身疾患にも関連してくる恐ろしい病気であるという認識が大切です。
それは歯周病菌です。
乱暴に言ってしまえば、歯周病菌に感染していなければ歯磨きをしなくても歯周病にはなりません。
ではいつ歯周病菌に感染するのでしょうか?
一般的には9歳~13歳頃に母親から感染すると考えられています。
また夫婦間でも40%の確率で同じ菌に感染していることから、大人になってからの性感染症であるともいえます。
四通りの経路が考えられます。
一つは歯周病菌が直接体内に侵入して悪さを起こすものです。
例えば動脈硬化を起こした血管の詰まった部分から歯周病菌が検出されます。
また歯周病菌に感染している妊婦さんの羊水の中から歯周病菌が見つかることがあります。
歯周病菌は全身をめぐるのです。
二つ目の経路は炎症による影響です。
体の一部に慢性の炎症が長い間あることで、炎症性の化学物質が作られ、それが全身に常に流れていることによって起こります。
三つ目は歯周病菌が産生する化学物質が血液により全身に流れ悪影響を与えます。
四つ目は歯周病によって歯を支える骨が溶かされ、歯がぐらぐらしたり抜けてしまうことで「食事を良く咬めなくなる」ことが原因になって全身に影響を与えます。
歯周病は防げます。
一般的には20種類程度の歯周病菌が知られています。
その中でもとりわけ毒性の強い菌は2種類、中程度の毒性を持つ菌は4~6種類です。
それらの菌を体の外に追い出してしまえばいいのです。
そして再感染しないように夫婦で予防に取り組むようにすれば良いのです。
最近言われている歯周病菌除菌療法、内科的歯周治療がこれにあたります。
ただ単に、歯周病に良く効く抗生剤を飲むだけでは全く意味がありません。
歯周病菌はバイオフィルムと言う水あめ状の強いバリアに守られています。
抗生剤や消毒薬はこのバイオフィルムに阻まれて中に入っていけないのです。
もしバイオフィルムを壊さずに、飲み薬だけで歯周病菌を全て除菌するためには、300~500倍の量の抗生剤を飲まなくてはいけません。これは致死量です。
そのため抗生剤を服用しながら歯科医院で専門的な清掃を繰り返して、バイオフィルムを壊すのです。
バイオフィルムが無ければ理論的には抗生剤で歯周病菌を除菌することが出来ます。
ではこの新しい試みはうまく言っているのでしょうか。
あまりうまくいっていないのが現状です。
例えば胃潰瘍・胃がんの原因であるヘリコバクターピロリの除菌は保険適応で内科で受けられます。
2種類の抗生剤を1週間飲んで、まだ胃に感染がある場合には違う二種類の抗生剤でもう1週間除菌を試みます。
また、腸に感染するフゾバクテリウムバリウムという菌がいます。
この菌を除菌するためには3種類の抗生剤を1ヶ月飲み続けます。
バイオフィルムが無くてもこんなに抗生剤を飲まなくてはならないのです。
歯科の除菌療法で使われる抗生剤はジスロマックという歯周病に良く効く抗生剤を5日間使います。
しかしこの薬とこの量ではあまり効果がないのです。この量は風邪をひいたとき、内科で出される通常量です。
抗菌療法認定医として、私も何年もの間、除菌療法を研究してきました。
しかし一般的な歯周病菌除菌療法には限界がありました。
ここ数年、特殊な方法を使い、ようやく除菌に成功し始めました。
多くの患者さんから幾度となく「毎日、歯磨きをしているのに、どうして歯槽膿漏(歯周病)になってしまったのですか?」ということを聞かれます。その答えの一つとして、歯周病(歯槽膿漏)が人から人へ移る感染症であるということです。
感染症である以上、物理的な清掃(歯磨き)だけで感染予防をすることはできません。
さらに、歯周病菌はバイオフィルムと呼ばれる強力なバリアで守られていますので、歯磨きだけでは、そのバリアを除去することが非常に困難です。
さらにさらに、歯の表面に長期間付着していた歯垢が、唾液中のカルシウムを吸着することによって歯石になります。
歯石が歯肉の溝(歯と歯肉の間には溝があり、歯肉の炎症が進行するほど溝が深くなります)にも付くことで、歯肉に対する刺激(歯肉の溝を押し広げようとする刺激)を与えます。
また歯石には歯垢が極めて付着しやすく、新たに歯石に付着した歯垢の中にいる細菌(歯周病菌)の働きにより、歯肉の炎症をさらに進行させていくことになります。
歯石は歯磨きでは取り除くことが出来ません。
つまり、いくら歯磨きを毎日しっかりしたとしても歯周病予防には限界があると言うことです。
ではどうすればいいのか?
その答えは、定期的に歯科医院で歯垢・歯石・バイオフィルムを除去してもらうことです。
歯科医院では専門の器具を用いることにより、これらを徹底的に除去することが可能となります。
米国で次のような興味深い報告がありました。
歯周病治療を終了した患者さんを10年間にわたって追跡調査したところ、治療終了後に定期的に歯科医院にて歯垢・歯石・バイオフィルムを除去することを続けた人は、そうでない人と比べて歯を失う本数は4分の1で済んだことが分りました。
歯科医院にて、3ヶ月~6ヶ月に1度のメインテナンスを受診されることをお勧めします。
当院では、一方的に治療を施すというスタンスはとっておりません。
私たちも頑張りますが、患者様も出来ることを(ご自宅でできるケア)頑張って頂くというスタンスです。
私たちが治療することにより、歯周病を改善することはできます。
しかし、あなたが今までと同じ生活習慣のままであれば、歯周病が再発してしまいます。
それでは意味がないですよね。
下の統計を見てみてください。
この統計はご自宅でのお口の清掃で、使う道具により落とせる汚れの割合も変わってくる事を示したものです。
日本では「歯ブラシ万能主義」が横行しており、歯ブラシで歯を磨けばすべての汚れが除去できると考えていらっしゃる方は多くいます。しかし、統計を見て頂きますと分かるように、歯磨きだけでは、汚れの6割しか落とすことが出来ません。
デンタルフロス、歯間ブラシを併用することで、磨き残しを更に減らすことが可能となります。
歯科医院でできることは限られています。
患者様の日ごろのケアをしっかりして頂き、それでも落とせない汚れを、定期的に歯科医院で落とすという考え方が、大事な歯を守り続けるためには大切となります。
私たちは、患者様の日ごろのケアを、効果的に、そして適切に行えるようサポートさせて頂きます。
歯周病(歯槽膿漏)の恐ろしいところは、サイレントキラー(静かな殺し屋)と呼ばれるガンや脳卒中と同様に、痛みが伴わないため、あなたが気付かないうちに病気が進行してしまい、気付いたときにはもう手遅れになってしまっているということです。
歯周病(歯槽膿漏)にかかった患者さんは、「グラつきだした歯を治したい」「以前と同じように物が噛めるようになりたい」という希望を持って、歯科医院に来院されます。
しかし、多くの場合「グラついた歯を抜きます」と診断されてしまいます。
歯科医院で行われる抜歯のうち、約8割が歯周病(歯槽膿漏)によるものだという報告もあります。
歯周病(歯槽膿漏)は末期になると、決定的な治療法や特効薬がありません。
歯科医師としても、歯周病(歯槽膿漏)の初期段階での治療は自信がありますが、末期では延命がせいぜい、というのが本音です。
しかし、早目の来院によって、その後の状況が大きく変わってきます。
ですので、下記のセルフチェックに該当する箇所が1つでもありましたら歯科医院への来院をお勧めします。
これらに該当する人は、歯垢がたまりやすく、リスクが大きいと言えます。
身体の抵抗力を弱めます。
タバコに含まれているニコチンは、歯肉の血流を悪くします。そのため、歯肉に酸素や栄養が行き渡らず、抵抗力が弱まり、歯周病を進行させます。
また、タバコによって発生する一酸化酸素によって、歯肉に酸素や栄養が行き渡らず、抵抗力が弱まり、歯周病を進行させます。
そして白血球の活動を悪くします。白血球は歯周病菌と戦い、退治する役目を持っているのですが、タバコは白血球の機能を低下させる作用があります。その結果、歯周病菌に対する歯肉の防御機能が低下して、歯周病が悪化しやすくなります。
タバコは歯周病の回復に必要な細胞の増殖をも妨げる働きがあります。そのため歯周病治療をしたとしても喫煙習慣を続けていれば改善は望めません。
精神的・肉体的なストレスは、唾液の性状を変え、免疫力を低下させます。
鼻ではなく主に口で呼吸する人は、口の中が乾燥して、唾液の働きが弱まります。
歯茎から染み出る体液と女性ホルモンが混ざると歯周病菌の増殖を助長するとされています。
歯並びの悪さに関しては理解できますよね。磨き残しが生じやすいためです。しかし、噛み合わせの悪さに関しては「?」ではないでしょうか。少しご説明します。
噛み合せが悪いという事は、すべての歯で圧力を上手に分散できていない状態とも言えます。つまり、一部の歯に過度の力が加わっていることになります。そうなると、その歯を支えている歯周組織(歯肉・歯槽骨など)にも過度の力が加わり圧迫された状態になり、血流の阻害が恒常化され、歯がグラグラになってしまう事があります。これを「咬合性外傷」といい、歯周病の原因の一つにあげられます。
また、寝ているときの「歯ぎしり」、ストレスによる「食いしばり」も同様の原因で歯周病の原因となります。
「噛み合わせ」が悪い場合は、噛み合わせの調整を行い力の分散を行います。
「歯ぎしり」「食いしばり」が原因の場合はマウスピースの使用で力の分散を行います。